毎年、12月から1月にかけ、「今年の賃上げは」というニュースがテレビ、新聞、インターネットに流れ、
3月、4月には春闘。それらを目にすると、誰もが「今年はどれくらい給料が上がるのかな?」と考えたりします。
でも、「ベースアップとは?」、「定期昇給とは?」と改めて聞かれると、「あれ、なんだっけ?」
となってしまうことはありませんか。
そこで、今回は「ベースアップ」とは何か、「定期昇給」とは何か、その違いについて紹介します。
「ベースアップ」とは従業員全体の賃金水準を上げること
定義と基本的な仕組み
ベースアップとは、「ベア」と略される和製英語で、「ベースをアップさせる」、
つまり、従業員全体の賃金水準・基本給を引き上げることを言います。
例えばベースアップ3%が決定すると、個人の勤務年数や成績は関係なく、
下図の通り、会社は全従業員の基本給を3%アップさせるという仕組みです。
■一律3% アップの場合
勤続年数 | 前年度基本給与 | 翌年度基本給与 |
10 | 250,000 | 275,000 |
9 | 240,000 | 247,200 |
8 | 230,000 | 236,900 |
7 | 220,000 | 226,600 |
6 | 210,000 | 216,300 |
5 | 200,000 | 206,000 |
なお、この3%という引き上げ率(「賃上げ率」と言います)は、
景気動向によって変化し、労働組合等から「物価上昇率を踏まえ、3.0%」といった形で要求が出され、
会社側は、業績が好調な時は、「よし、3.0%」と満額回答をしますが、
業績の悪い時には、「要求から0.5%削り、2.5%」という減額した回答になります。
将来にわたり負担増になる問題点
上記の通り、ベースアップは、全体の基本給を引き上げます(一旦引き上げると、簡単には下げられない)ので、
将来にわたって負担が増えることになります。
そのため、高度成長期のように、右肩上がりの場合を除き、業績が好調であっても、ベースアップすることは躊躇します
ベースアップの推移
近年では、ベースアップを行う企業が少なくなりました。
ここでは、日本の時代背景とともにベースアップが行われるようになった理由や、
現在見直され始めている理由について解説します。
春闘とともに始まった
1955年、日本で初めて春闘が行われました。
春闘とは賃金や労働条件について、経営者側と労働組合とが交渉する場です。
この春闘を通じて、定期昇給とベースアップが一般化しました。
高度成長期におけるベースアップ
高度成長期では、日本の景気が好調だったため、
多くの企業で毎年5%を超えるベースアップが行われていました。
商品やサービスを作れば作るほど売れる時代だったため、
企業も多くの従業員を求め、給料を引き上げていました。
またベースアップは、インフレ率に応じて名目賃金を調整する役割をもっており、その手段としても使われていました。
1969年 | 1970年 | 1971年 | 1972年 | 1973年 | 1974年 | 1975年 |
14.5% | 17.2% | 16.5% | 14.9% | 19.2% | 29.3% | 13.1% |
と今では考えられない程の賃上げが行われたことがありました。
そのため、1974年などは、あまりのインフレの凄さに、春と秋の、年2回のベースアップが行われたそうです。
デフレ経済下におけるベースアップ
90年代後半からバブルが崩壊し、現在に至るまではデフレ経済であり、景気が低迷しています。
ベースアップは景気に大きく左右されるため、
多くの企業が労働組合によるベースアップを断るようになってしまいました。
その結果、従業員の給料の基準が大幅に低下しています。
近年では、経営が安定した大企業はベースアップを取り入れるようになりつつあります。
しかし、最近では新型コロナウイルスの影響により経済がさらに落ち込み、
いまだ多くの企業でベースアップは積極的に実施されていない状況です。
最近の動き
デフレ脱却を目標と掲げた安倍政権は、継続して経済界に賃上げを要請し、
それに続く岸田政権も同じ方針を掲げ、例年の春闘を「官製春闘」と揶揄されている面はありますが、
各企業において、様々な動きが出ています。
例えば、家電量販店のノジマは、従業員を対象に2022年12月の給与から月2万円の賃上げを決めています。
飲料大手のサントリーホールディングスは、今年の春闘で5年ぶりにベースアップを行う方向で検討に入っています。
飲料業界では、この他に、
- アサヒビールがベアを含む平均5%程度の賃上げ
- サッポロビールもベアを行う方向で検討
という動きになっています。
「定期昇給」とは人事評価等に基づく、昇給制度のこと
一方、定期昇給とは、社員の年齢や勤続年数に応じて、
毎年一定の時期に行われる各社員の人事評価等に基づき、賃金を昇給させる制度のことです。
基本的な仕組み
定期昇給を図で示すと、下記のように、毎年の人事評価に基づき、基本給が変化(昇給)するものです。
ベースアップと定期昇給による基本給の変化
上記の定期昇給に前項のベースアップを合わせた場合の基本給の変化は以下の通りとなります。
定期昇給の問題点と現在の傾向
問題点
この制度は、多くの日本企業で導入されてきた年功賃金の中心的制度で、
社員の定着率(連続勤務年数)を上げるというメリットがある反面、
明確な成果を上げなくても(昇給額は少なくても)、毎年給料が上がる仕組みであるため、
「何もしなくても給料が上がるなら努力しなくてもいい」とデメリットもあります。
現在の傾向
そのため、バブル崩壊後の1990年代頃から、個人の人事評価に加えて会社・部署の業績によって、
昇給や降給が決定される成果主義を取り入れるなど、
制度の形を変えて取り入れる企業や定期昇給制度(年齢給・年功給)そのものを採用しない企業も増えています。
まとめ
以上、ベースアップと定期昇給についてみてきましたが、どちらも日本独自のものです。
海外では成果に対して賃金を払うというのが一般的な考え方となっています。
日本にも数多くの外資系企業が進出し、グローバル化が進む流れのなかで、
日本独自の経済的な仕組みは時代にそぐわないものとなってきました。
既に述べましたように、成果主義への移行が始まっており、
いずれベースアップも定期昇給も、終身雇用制度も無くなると思われますので、
テレビ、新聞、インターネット等で、これらのニュースを注視していくことが大切です。